作り直さずに長期間使用できる入れ歯

連結した被せ物(ブリッジ)の欠点

「一度作ったら長期間作り直さずに使える、噛める歯を作ってほしい」という依頼の40代の方です。

写真です。

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これの何が問題なのでしょうか?

 

実は連結している被せ物が一気に抜け落ちてしまったのです。

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被せ物だけが外れたのではありません。

歯の根ごと取れたのです。

しかも被せ物のかぶっていた歯は以下の状態です。

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残せる歯、残せない歯を図示すると以下のようになります。

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誰しも入れ歯になるのは嫌です。

そのため、「何とか被せ物でつなげてください!」とおっしゃって、つなげた被せ物:ブリッジにします。
ところがブリッジには大きな欠点があります。
つなげた歯が1本でも悪くなったら、 総取り換え・全部やり直し になることが多いという事です。
患者さんは3~4年前に80万円ほどかけて、この被せ物を作ったそうです。
なぜこれほどの費用がかかったかというと、前歯が5本連続で欠損していた為、保険適応外だったからです。

 

保険でのつなげた歯(ブリッジ)は、3本以上の連続欠損に対しては力学的に問題がある為、適応外となります。(例外的に下の前歯は4本連続で欠損していても保険適応のケースがあります。)
しかしそれでも入れ歯が嫌であったため、ブリッジにされました。

 

インプラントという手段もあったのでしょうが、費用は150万(30万円×5本、東京ならば40万円×5本)を超える可能性があります。
結果、3年で80万円が無となりました。

 

以上のような経緯があった為、「一度作ったら長期間作り直さずに使える、噛める歯を作ってほしい」という希望になりました。
「例え現在残っている歯がすべて無くなったとしても、それでも使える入れ歯」 ということで、当医院ではテレスコープデンチャーを計画いたしました。
インプラントでは費用があまりに高額になってしまったからです。

 

吸い付きが強くて動かない入れ歯

まず、残った歯に入れ歯との接続装置となる、レジリエンツ・テレスコープ内冠を装着しました。専門的な話になりますが、コーヌス・テレスコープ内冠ではありません。

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次に入れ歯の型取りを行いました。

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あごの土手の形を型取りするだけではなく、唇の位置まで型取り材で記録します。
こうすることで、唇に調和した前歯の位置を知ることができます。

完成した義歯:レジリエンツ・テレスコープ・デンチャーです。

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この金属部分に、歯に着けたレジリエンツ・テレスコープ内冠がはまり込みます。
装着した状態です。

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全く落ちてきません。

焼き肉でもとんかつでも、なんでも噛めます、召し上がれます。
はずす時は口に少し水を含み、両手を使って引き剥がす様にされていました。
両手を使う程強く口の中にはまっていますが、残っている歯にはほとんど力は加わっていません。精密に作られた入れ歯であるため、入れ歯と歯ぐきとの間の空気がかなりの程度抜け、吸盤のような状態になっている為、はずれないのです。
また、2枚のガラス板の間に水をたらすと、2枚のガラス板がくっつくのと同様の作用もあります。

 

天井をなくすことはできるでしょうか?後ろを短くできるでしょうか?
おえっとなりやすいのです。

入れ歯を製作すると必ず言われる言葉があります。それが 「天井をなくすことはできるでしょうか?後ろを短くできるでしょうか?おえっとなりやすいのです。」 という言葉です。
天井をくりぬくと、たとえ金属の入れ歯でも、真ん中から割れることがあります。
プラスチックの保険の入れ歯ならなおさらです。
総義歯の場合、吸着は後ろの縁での封鎖によって行われるため、後ろを短くしたり天井をなくしたりすると入れ歯が簡単に落ちてくるようになります。
しかし、心配しないでください。
この入れ歯はほとんど全くと言ってよいほど動かないため、天井があってもほとんど気になりません。

 

パカパカ動くと粘膜を刺激して、嘔吐反射が出ます。
しかし全く動かなければ、気にならなくなってきます。
肩を叩かれることを想像してみて下さい。
ポンポン肩を叩かれ続けられると、気になります。
それに対し、シップの様に肩に貼り付けたままの物は、気になりません。
入れ歯も同様で、動かず貼り付いた状態の物は、気になりません。
ですから、「天井があって嘔吐感が強い、でもインプラントはできない。」という方にも、このレジリエンツ・テレスコープ・デンチャーはおすすめできると思います。
歯が1本も残っていない本当の総義歯の方で嘔吐感の強い方は、流石にできません。インプラントを2~4本入れた上でレジリエンツ・テレスコープ・デンチャーをおすすめいたします。

 

費用およびインプラントと比較したメリット・デメリット

この方には歯が4本ありました。そのため以下の金額となりました。

テレスコープ部@16万円×4本=64万円

義歯部チタン床=30万円

小計94万円

8%消費税=75,200円

総額1,015,200円

これをインプラントと比較します。

ケース1:欠損した歯にすべてインプラント:欠損歯数10本×30万円=300万円

ケース2:欠損した歯に1本おきにインプラント:インプラント5本×30万円=150万円

この金額にサイナスリフトという骨を作る治療が必要で、20~50万円ほどかかります。

ケース3:オール オン 4(All on 4):200万~250万 ただし、オール オン 4の場合、左右の一番後ろの奥歯はありません。

金額の上では明らかなメリットがあると思います。

 

テレスコープ・デンチャーは「削った、被せた」といった、一般の方が思い描く歯科の治療で製作することができます。
それに対して、インプラントは「歯ぐきをめくった、骨を削った・穴をあけた、骨や肉を作った」など、大きな外科処置を伴います。CTの発達で外科処置は小さくなってはきていますが、それでも外科処置は必要です。外科処置は劇的な治療結果を見せてくれますが、失敗した時の結果も劇的です。失敗した時医者の技術がすべて悪いように言われますが、天下の名医でも患者さんの体質によってはうまくいかないこともあります。外科処置は失敗した際の肉体と時間の喪失が大きいと思います。

 

テレスコープ・デンチャーの場合、残っている歯を失うことになっても、作り直さずそのまま使用できます。たとえすべての歯を失っても、総入れ歯として使用できます。
それに対しインプラントの場合は、インプラントが悪くなった時にはそれを除去しなければなりませんし、被せ物も作り直さなければなりません。

 

介護担当者・看護士からの意見

私は現在(平成26年7月)浜松市歯科医師会において在宅介護・在宅歯科診療の関係の仕事をしています。
その関係でケアマネや看護士とお話をする機会があります。

それらの方との懇話会で、看護士の方から「インプラントは本当にいいものなのですか?」と質問されたことがありました。終末医療の現場において、インプラントは体を化膿させる異物として作用している場合があるのです。歯も体を化膿させる異物として作用することがあります。介護の現場では総入れ歯が一番衛生管理を行いやすいとのことです。抜歯はかなり体が弱った方でも何とかできます。しかし、インプラントを抜くことはかなり難しいです。介護の現場に立ち入った時、インプラントは数本にとどめておいた方が良いのではと思います。

【筆者】
清水 信行 歯科医師(歯学博士)

日本補綴歯科学会 専門医
日本糖尿病協会歯科医師登録医
日本顎咬合学会:認定医
JIADS:会員 PGI:会員
浜松市歯科医師会:
在宅歯科・介護委員会 所属

静岡県浜松市の歯科医
「オペラデンタルオフィス」院長として、日々数多くの患者の症例と向き合っています。

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